2018年04月30日

第83話「犯人はオレだ!」

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眉間にシワを寄せ「空き巣に入られた!」と母チコちゃん(86歳)が言う。
このところ物忘れがドンドン激しくなり、カバンや財布やカギがしょっちゅうなくなり、常にさがしものをしている母チコちゃんだが、空き巣とは尋常でない。
先日も買い物用のカートがないと騒ぎ出し、あげくに「お父さんが隠した!」と激怒したことがある。結局その日は手ブラで買い物に出かけたのだが、いつも行くスーパーに着いてふと出入り口付近を見たら、なくなったはずのカートが置いてあったのだ。なんのことはない、前回の買い物で、カートを持参したのに、忘れて帰っていたのだった。
しかし今回は空き巣というのだから、ちょっと事態は深刻である。
再度くわしくきいたところ「通帳がない」という。
それなら問題ない。
いや、問題大有りなのだが、とりあえずは問題ないということだ。
そもそもボクの遠距離介護ツアーも、昨年父ハム夫くん(92歳)が通帳をゴミに出してしまったところから始まったのだった。
この通帳ゴミ出し事件をきっかけに、実家から約1時間のところに住む妹U子と協議して、通帳は銀行の貸金庫に預けることにしたのだ。このことは母チコちゃん(86歳)にも言っておいたのだが、今ではすっかり忘れてしまったようだ。
通帳が母の手元から消えたことに関しては、「犯人はオレだ!」とココロの中で自白しておこう。
母チコちゃん(86歳)は「市役所か警察に行く!」と息巻いている。まぁどちらに行っても相手にされないだろうが、金融機関に行ったらちょっと面倒な気がする。というのも「私の年金が入る通帳があるはずじゃ。あったら全額現金にして持っておく」とも言っているからだ。
転ばぬ先の杖で、金融機関に事情を説明しておいたほうがいいかも知れないと考え、さっそく母の口座がある金融機関に出かけた。
金融機関の窓口でスタッフにこれまでのいきさつ伝えたが、あまり興味がないようで椅子にふんぞりかえり、フンフンと気のない相槌をうつばかりだ。「もしご本人様がお見えになられた場合は通帳再発行はできます」などと通り一遍な反応でしかかえってこない。
しかし「そうなったら母は全額引き出すと言ってます」と述べたところ、スタッフの態度が一変して急に前のめりになり、「それは大変ですね」と親身になりはじめたのだった。
その後は、なにやらモニタを見つつ現在の口座の状況等も調べてくれはじめた。とはいってもモニタ画面はこちらには見せてくれない。
ボクが「どうやら複数の口座があるらしいのですが?」ときくと「ご本人様以外にはお伝えできません」と言いつつ、手をこちらに差し出す。
片手は五本指を大きく開いて、片手は一本指である。
最初何のことかわからなかったのだが、どうやら口座数が6口あるということのようだ。
その後も対応策についてあれこれきいたのだが妙案はなかった。
唯一新しい提案は第二連絡先設定というものだ。
連絡先電話番号登録が、最近は固定電話と携帯電話の両方ができるが、実家の両親は携帯電話を持っていないので、今までここが空欄だった。この第二連絡先に妹U子の番号を登録して、金融機関をあとにした。
実家までの帰り道、全額おろされてはたまらないとあせったスタッフの表情を思い出して口元がゆるむのだった。
帰宅したら、母チコちゃん(86歳)は空き巣云々のことはすっかり忘れたようでニコニコしている。
犯人のオレは、しばらくは捕まることはなさそうである。
第84話につづく
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2018年04月23日

第82話「ラ・ラ・ラ・ラッキョがいっぱい」

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前回の第三次遠距離介護ツアー時、母チコちゃん(86歳)の買い物マイブームは豆腐だった。
今回の第四次遠距離介護ツアーで、父母が暮らすH県M市にやってきたら、母チコちゃん(86歳)のマイブームはラッキョになっていた。
スーパーに行くと、まずラッキョを買い、あちこちまわっているうちに再びラッキョを買ってくるのだ。
おかげで冷蔵庫はラッキョだらけだ。
冷蔵庫の野菜室にも、チルド室にも、冷凍室にもラッキョがあふれている。どうしてこんなにラッキョを買い続けるのか母チコちゃん(86歳)にきいたら「お父さんが好きなんじゃ」という。
父ハム夫くん(92歳)は食卓に出されたラッキョを黙々食べているから、嫌いではないのだろうが、そんなに好きとも思えない。母チコちゃん(86歳)の思い込みのような気がしないでもない。
あまりにもラッキョを買うので、母チコちゃん(86歳)が買い物に行っている間に、冷蔵庫内のあちこちに散らばっていたラッキョの小袋をまとめて大きなビニール袋にて入れてみた。
帰宅後コレを見た母チコちゃん(86歳)の言葉がすごかった。
「あら〜お父さんがラッキョが好きなのを知った誰かが、こんなにたくさんのラッキョを冷蔵庫に入れてくれたんじゃね」だって。
どこまで自分中心に考えるんだよ、まったくのところ。
このラッキョ問題のように、自分に関連するものには興味を示すが、それ以外のものには拒否反応を起こすのも母チコちゃん(86歳)の生活態度の特徴だ。例えばボクが買ってきたイングリッシュマフィン、冷凍お好み焼き、レタス、ブロッコリ、ケチャップ、マヨネーズなどは、ちょっと目を離したスキに冷蔵庫から消えてしまった。あるものは電子レンジの中に入れてあったり、あるものは食器乾燥機の中に入れてあったり、ひどい時はゴミ袋の中に捨てられたりしている。
どうしてそんなことをするのかと問いつめたら、「大事なモノのような気がしたので別の所に置いておいたんじゃ」と言い訳をするのだった。
おそらくは、自分で移動したことを忘れてしまっているのだろう。
忘れるといえば食事もそうである。
母チコちゃん(86歳)の場合、食べるのを忘れるのではなく、作った事を忘れるのだ。
夕食をすませてしばらくした時、ふとテーブルを見ると、父ハム夫くん(92歳)の前に、またしても食事の用意がしてある。
どうして食後にまた食事の用意ができるかというと、母チコちゃん(86歳)の食事に関するポリシーによるものなのだ。それは、料理を食べるだけ作るのは寂しいからというものだ。その結果、二人暮らしなのに四人家族分くらいの料理ができてしまい、食後でも食べるものはまだまだあるのだった。
父ハム夫くん(92歳)はもうあまり食べたくないと言いながら、せっかく出されたものに手をつけないのは悪いと思っているような表情で、再び箸を持つのだった。
母チコちゃん(86歳)は「マンマ食べるか?」とまだ言っている。これは、父ハム夫くん(92歳)に言ったのではなく、猫クンに言っているのだ。
猫クンも、そんなにおなかは空いてないようだが、これまた飼い主に気をつかってなのか、少しは食べている。そういえば、父も猫クンも前回の第三次遠距離介護ツアー時よりは太っているようだ。
父と猫クンを見ながら、母チコちゃん(86歳)はニコニコしている。日常のいろんなことはすぐ忘れてしまうが、その表情は多幸感にあふれている。
台所からまたまたラッキョの小皿を持ってきた。この状態では、これからもラッキョを買い続けることだろう。韓国にはキムチ用冷蔵庫があるそうだが、そのうち母チコちゃん用に、ラッキョ冷蔵庫が必要になるかもしれない。
第83話につづく
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2018年04月16日

第81話「紙パンツ着用大作戦」

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近頃の、父ハム夫くん(92歳)のトレンドは失禁
たいていは小のオモラシだが、時々は大もある。
それにつれて、だんだん通常の下着では対処しきれなくなっている。
そこで登場するのが失禁パンツとか尿漏れパンツなどといわれている、内側に尿吸収部分がある布製の下着である。
しかしこれにも欠点がある。
価格が3千円程度することと、チョイ漏れしか対応できないことだ。
父ハム夫くん(92歳)の場合は、チョイ漏れというよりダダ漏れの域に達し始めているので、ちょっとこれでも対処できなくなりつつある。
次に登場するのが、失禁界のラスボスともいわれる、紙パンツである。あるいは、はくパンツリハビリパンツともいわれる。リハビリパンツは略称リハパンともいわれる。つまりは、失禁しても洗うことなく捨てられるパンツだ。
なんとかコレを父ハム夫くん(92歳)にはいてほしいのだが、なかなか難しい。ボクがそう懇願していると、横から母チコちゃん(86歳)が「ちゃんとオシメをつけなさいよ」とよけいなことを言う。
オシメなんていうと、父ハム夫くん(92歳)のプライドはズタズタになってしまうではないか。
そうこうしているうちに、父ハム夫くん(92歳)はオモラシしたようでジャージがシミになっている。
こんな時、なかなか紙パンツを着用してくれない父ハム夫くん(92歳)に、力ずくで無理矢理はかせるのは難しい。
そこでちょっと閃いた。
ボクが紙パンツを着用すれば、ウッカリつられてはいてくれるかもしれないと。
さっそくズボンの上から紙パンツを着用してみせた。
我ながら珍妙なスタイルである。
「ボクもはいたから一緒にはこうよ」とうながしたら、父ハム夫くん(92歳)がうなずいた。
紙パンツを手にした父ハム夫くん(92歳)は、ジャージの上からはこうとしはじめる。
いやいや、実際には素肌というかフルチンではくんだからと説得して、なんとか濡れたジャージと下着を脱がして、紙パンツをはかせたのだった。
この紙パンツ着用大作戦、今後もこの作戦でいけるわいと思ったが、成功したのはこのときだけで、その後は紙パンツ着用攻防戦がくりひろげられることになる。
この紙パンツというものは消耗品だから、長い間にはけっこう費用がかかる。
そこで登場するのがパンツの中に入れて使うパッドなるものだ。これなら、尿を吸収したパッドだけを交換すればいいので経済的である。生理用ナプキンみたいな感じのもので、包装紙に男女兼用との表記がある。ということは、男女それぞれ専用パッドもあるということなのか。
ちょうどやってきた介護事業所のスタッフにきいてみたら、「男性用パッドありますよ」と即答があった。
どこが男性専用なのかというと、ただ股間にあてるのでなく、おチンチンに巻いて包み込むようなタイプのものなのだとか。
説明を聞くだけで、使用感が想像できるではないか。おそらく父ハム夫くん(92歳)は拒否するだろう。
ボクだって拒否したくなるよ、そんなのは。
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2018年04月09日

第80話「実家の法則」

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第四次遠距離介護ツアーで、父ハム夫くん(92歳)と母チコちゃん(86歳)が暮らすH県M市の実家に滞在している。
実家の3法則というものがある。
●その1、実家は寒い。
実家の所在地が北にあろうと南にあろうと、実家というものは、おしなべて寒い。
それでなくても今回の第四次遠距離介護ツアーは、日本中に大寒波が襲来した時期だったので、ことさらに寒かった。この法則は正しい。
●その2、実家の備品は壊れる。
第四次遠距離介護ツアーにやってきて、前回の第三次遠距離介護ツアー時とちがうところを点検してみる。
洗面所の流しにバスタオルが丸めてつっこんであった。
母チコちゃん(86歳)にきいたら、パイプから水が漏れるのだという。しかし、あちこち点検してみたところ、水が漏れているようにはみえない。なおもきいてみたら、ずいぶん以前にパイプが壊れて水漏れしたことがあったらしい。それなら今は大丈夫なんじゃないかと僕が言ったら、「また壊れるかもわからんので洗面所は使えんのじゃ」と母チコちゃん(86歳)。最近のことは全く覚えられないが昔起こった強烈な事柄に関してはよ〜く覚えている母だった。
台所からポタポタと音がする。
水道の蛇口のパッキンがだめになっているようだ。昔のタイプの蛇口ならパッキンを替えればいいのだろうが、最近のタイプは一体型みたいなものになっていて素人には手強そうだ。
それに寒波での水道管凍結防止の意味でも、ポタポタ水滴がたれていたほうがいいだろうと思えるので、今回はそのままにしておこう。
ふと見上げると天井の照明が暗い。
三個でセットになっている電灯のうち二個は点いているが一個はついていない。これは前回の第三次遠距離介護ツアー時にも気付いて、父母には言っておいたのだが、そのままにしていたようだ。物忘れのはげしい二人だから、このままでいくと、ある日気がつくと暗い部屋に呆然として佇む二人が発見されそうでこわくなる。グローランプを交換して原状回復。
リモコンの電池交換や、充電機器を充電する気も全然ない二人なので、ボクが遠距離介護ツアーで実家に滞在中はできるだけこのへんをメンテナンスしなければならない。
食器もやたらと欠けたものが多い。食器棚のガラス戸も割れている。コーヒーメーカーの容器も部分的に割れている。家中にたくさん置いてある時計もほとんどがとまっている。地デジ非対応のテレビも何台かある。実家の時間は数十年前でとまっているかのようだ。
備品ではないが、ゴミに関しても同様だ。
ゴミを分別して出すのは面倒なものだが、母チコちゃん(86歳)はそんなものは気にしない。そんなことではゴミ収集車が持って行ってくれないよというと、「そんなら庭で燃やす」という。いやいや最近は焚火しただけでも消防車が来るんだよとボクが言ったら、「だったら穴を掘って埋める」ときたもんだ。いったいいつの時代までさかのぼっているのだろうか、もうわけがわからない。
●その3、実家は蚊が多い
コレに関しては今回は紙面がつきたので、いずれ機会をみて次々回の第六次遠距離介護ツアーあたりで検証しよう。
第81話につづく
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2018年04月02日

第79話「ケンベン大作戦」

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てなわけで第四次遠距離介護ツアーで、父ハム夫くん(92歳)と母チコちゃん(86歳)が暮らすH県M市までやってきた。
まずは二人が暮らす実家ではなく、近所に住む親戚のS子さん(75歳)のお宅に伺い、あらかじめ送っておいた着替えが入った荷物を受け取る。
その時にS子さんから衝撃のエピソードをきかされた。
最近、父ハム夫くん(92歳)は失禁することが多くなり、濡れた下着を隠そうとするのだそうだ。先日も、玄関先の植え込みの中にオモラシした下着を丸めて置いていたのを、S子さんが発見して確認したら、ただ汚れただけでなく血がついていたのだとか。
この事をS子さんが母チコちゃん(86歳)に話したら、即座に「お父さんは痔じゃ」と言って、その後はほったらかし状態のまま、今日まで来たということだった。
今回の第四次遠距離介護ツアーの予定には入ってなかったが、翌日に内科まで父ハム夫くん(92歳)を連れて行った。
その結果、出血の原因は痔ではなかった。
しかし、体内からの出血も考えられるので検便してみましょう、というのが医師の見解だった。
便器の上に敷いて排便して、便を採取した後はそのまま流せる検便用具一式を手渡される。
さて、ここからが問題だ。
父ハム夫くん(92歳)が、この検便セットをうまく処理出来るとは思えない。一日中待機しておいてトイレに行きそうになったところをみはからってセットするしかないのか…と悩んでいたが、簡単にこの件は解決した。
父ハム夫くん(92歳)の失禁は、小だけでなく大の場合もある。この日もタイミングよくパンツの中にオモラシしてしまったので、さっそく脱がせて洗う前に便を採取し採便管に入れたのだった。
これで第1回目の検便は成功。
そう、この検便は別の日にもう一度便を採取する必要があるのだ。
ところが、この後なかなか大の方の失禁をしないのだ。
半分あきらめかけたころチャンスはやってきた。
それから数日後、朝目覚めたら、どうも家中がウンチ臭い。ニオイのもとをたどったらトイレだった。トイレなんだから少々におっても不思議はないが、それにしては臭すぎる。
おそるおそるトイレのドアをあけてみた。
便座と便器の間にウンチが大量についている。おそらく父ハム夫くん(92歳)が夜中にトイレに立った時に、失敗してしまったのだろう。
見ると、まだそんなに時間はたってないようで、これなら検便に使えるぞと閃き、あわてて部屋に戻り採取キットを持ってくる。
こうして無事に2回目の便採取も成功した。すぐにこれを持って医院に駆けつけたいところだがトイレをこのままにしておくわけにもいかない。
朝も早よからブラシ片手に便器の便をゴシゴシするのだった。
ちょうど、新企画のダジャレマンガの案を考えている時だったので、「便をゴシゴシするのは弁護士」なんてのを思いつく。後日、この案を編集者との打ち合わせ時に提案したらボツになった。
介護とダジャレは両立しないのであった。
肝心の出血の原因だが、お尻をかきむしってできた傷からのものではないかということで、小さな塗り薬を1本出してもらって一件落着した。
まずは大事にならなくてひと安心。
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