2018年06月11日

第89話「合鍵にご用心」

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第四次遠距離介護ツアーから無事に生還して数日がたったある夜のこと。
父ハム夫くん(92歳)と母チコちゃん(86歳)が暮らすH県M市の実家の隣に住む親戚のS子さん(75歳)からLINEで連絡があった。
それは、もう夜9時を過ぎているのに一階の電灯がつきっぱなしで、大音量のテレビの音が家の外にも洩れ出し、エアコンの室外機も動いている、というものだった。
普段は、早ければ7時過ぎには消灯してしまう二人の暮らしだから、これはちょっと異常である。
夕方には定期巡回随時対応型訪問介護看護事業所のスタッフが訪れているはずだから、もし家の中で倒れていても、まだ数時間のはずだ。
S子さんが固定電話に電話しても反応がないという。
消灯後は、電話の子機を持って母チコちゃん(86歳)が2階に上がるのが日常なのだが、二階に灯りはついていないらしい。
こんな時のために、S子さんには合鍵を預けてある。
玄関のカギをあけて中に入ろうとしたところチェーン錠がかかっていて入れず、猫クンが出てきただけだったそうだ。
裏口に回って入ろうとしたらカギが合わなくて、ドアがあかなかったとS子さんは言う。この裏口の合鍵は、先日の第四次遠距離介護ツアー中に、母チコちゃん(86歳)が持っていた裏口のカギをコピーして渡しておいたものだ。なぜカギが合わないのかわからない。
S子さんに「このカギでちゃんとあくか確認した?」と問われるが、疲れがピークの第四次遠距離介護ツアー終盤に合鍵を作ったので、そのへんの記憶が曖昧で、確証がない。
そういえば、もうひとつの裏口の合鍵を定期巡回事業所に渡していたことを思い出した。この時はスタッフがドアを開けるのを確認したのをはっきり覚えている。
S子さんにそのことを話したら、24時間対応の訪問看護ステーションに連絡してみるとの提案があった。第四次遠距離介護ツアーからの撤収時に、受付電話番号の記載された用紙のコピーを渡しておいたのだがその番号はスマホに登録してあるという。なんというS子さんのナイスプレー。
S子さんが訪問看護ステーションに連絡したら、合鍵を持って1時間以内にやってくるという。なんとか光明が見えてきた気がする。
約1時間後。
訪問看護ステーションのスタッフとS子さんが、合鍵で裏口から室内に入ったら、父ハム夫くん(92歳)が大音量のテレビの前に座っていた。
いつもより遅くまで起きて、テレビを見ているだけだったのだ。大音量は、耳が遠いのでボリュームを最大にしていただけだった。
しかし、母チコちゃん(86歳)の姿はない。
こちらは、S子さんが二階に上がってみたら大イビキで熟睡していたそうだ。
何故電話に出なかったのかはすぐに判明した。
その夜に限って、母チコちゃんは固定電話の子機を二階に持って上がるのを忘れていたのだ。
あっけない一件落着だったが、訪問看護ステーションの24時間対応システムがちゃんと動いていることが確認できてよかったといえる。
今回は大事にはいたらなかったが、いつ何が起こるかわからない父母の生活だから、いざと言う時の予行演習と思っておくことにする。
一夜明けて、翌朝。
S子さんが、二人の様子を見に行くと、二人は何事もなかったように、朝食を摂っていたそうだ。
「昨夜はたいへんじゃったね」とS子さんが声をかけても反応がない。なんと二人とも昨夜の事件を忘れているのだった。
まァ、たいへんな事は忘れた方が精神衛生上はいいかもしれないから、二人にとっては、これでいいのかも知れない。
数日後、S子さんが持っていた裏口の合鍵でドアがあかなかった原因がわかった。
この日実家からクルマで1時間のところに住んでいる妹U子が実家を訪れ、母チコちゃん(86歳)の持っているカギを確認して判明したのだ。
母チコちゃん(86歳)は裏口のカギを2本持っていて、1本はたしかに裏口のカギだが、もう1本はそうではなかったのだ。訪問看護ステーションに渡したのは、前者のカギをコピーしたスペアキーで、S子さんに渡したのは後者のスペアキーだったのだ。
最後に残った謎は、裏口のカギだと思って母チコちゃんが持っていたカギはどこのカギなのかということだ。
ものごとを整理して説明出来る能力はなくなっている母から、真実を聞き出すのは無理であろう。
これに関して、遠距離介護者のできることはない。たぶんこの謎は永遠に解けない。
第90話につづく
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posted by ODA-SAN at 09:00| Comment(0) | 日記