2017年09月11日

第24話「父、散髪に行く」

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父ハム夫くん(92歳)の朝は午前6時のめざまし時計のベル音で始まる、わけではなく5時には目覚めて朝刊をとりにいくことから始まる。
父ハム夫くんは耳が遠くなっているので、午前6時のめざまし時計のベル音はきこえない。たぶん現役時代にセットしたままになっていて、獣医を引退して久しい今も、毎朝ムダにベルの音を鳴らしているのだろう。
朝食をとった後は薬を飲んで、テレビを見つつ、ウツラウツラするのが日課になっている。
しかし今日はちがう。
いつになくはりきって、ポケットがいっぱいついた外出用のベストを着用している。ポケットに封筒を入れている。封筒には「予備費」と書いてある。もう銀行でやりとりができなくなっているのに、どこからかヘソクリを出してきたようだ。
きょうは床屋に行く!
突然の父ハム夫くんの宣言である。
第二次遠距離介護ツアーで数日同居しているが、父の行動範囲は玄関から裏口ぐらいまでで、とても床屋さんに自力で歩いて行けるとは思えない。
そんなことを思いつつ、iPhoneでメールをチェックしていたら、父の姿が見当たらない。あわてて外に出たら、100メートル先を一人で歩いている。どうやらほんとに床屋をめざしているようだ。その歩きっぷりがなかなかしっかりしていたので、思わずiPhoneのカメラを起動してムービーを撮影する。後日、この動画を妻や妹に見せたら「こんなに歩けるとは!」と同じような感想をもらしたのだった。
床屋さんに入るのを確認して、散髪が終わる頃に床屋さんに父を迎えに行った。
お店の人に支払いはちゃんとできたかきいたら、三千円のところを三万円払おうとしたそうだ。千円札と一万円札の区別がつかなくなっているのか。
帰路は二人で肩を並べて歩いて帰った。
父は途中で疲れたのか、ボクの手を握ってきて少しよろつきながらも、なんとか無事に家に帰り着いた。
玄関に入る時にボクに向かって「ありがとう」と言って家の中に入っていった。
父からありがとうなんて言われたのは初めてだったから、どう返答していいかわからず、その場に立ちすくむボクだった。
父の背中がひときわ小さく見えた瞬間だった。
(第25話に続く)
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posted by ODA-SAN at 09:00| Comment(0) | 日記
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