2018年08月06日

第97話「ハム夫くんサヨナ〜ラ♪」

097.jpg

さっきから「いいえそれはけっこうです」とか「必要ありません」とか「いらないです」とか答え続けている。
父ハム夫くん(92歳)が突然あの世に去ってしまってからやってきたのは、葬儀に関するあれやこれやだ。
通夜はどうする、葬儀会場はどうする、花はどうする、ハガキはどうする、写真はどうする、食事はどうする、ドライアイスはどうする、坊さんはどうする、司会はどうする、骨壺はどうする、湯灌はどうする等々葬儀屋さんの怒濤の攻撃をかわしつつ、テキパキと判断して、ほとんどの提案にノーを言い続けるワタクシ。
たまにはイエスとも言って、適当におりあって、なんとか通夜葬儀に突入していくしかない。
今は、病院から葬儀場まで遺体を運んで、通夜と葬儀のだんどりもなんとかつけたところだ。
そんなとき、実家の近所に住む親戚のS子さんが「枕経はどうするん?」と言ってきた。枕経とは遺体安置時にあげるお経なのだそうだ。そんなもの全然想定していなかったので、あわててお寺さんに電話してきてもらう。
こんなことで、ちゃんと通夜から葬儀まで進行できるのだろうか不安になる。
一夜明けて、お通夜当日の朝。
昨夜、ボクの喪服を持って妻もやってきた。しかし、黒靴は重くて持ってこなかったので、会場に行く前に靴屋に寄って靴を買ってから行くことになった。
ところがどっこい、今は亡き父ハム夫くん(92歳)の靴でほとんど履いていなかったものが、ボクの足サイズにぴったりなのを発見したのだったのだ。
供養にもなるしいいよねと、玄関先で、丁度やってきた妹U子の家族たちと笑っていたら、母チコちゃん(86歳)が奥から出てきて「なんでそんな靴を履くんね?」と言う。
「なんでって通夜と葬式の時に履くんだよ」とボク。
「誰か死んだんか?」と母。
「誰ってお父さんよ」とボク。
「え〜っお父さん死んだんか」と母。
一同唖然…。
やがて、ハム夫くんが亡くなったことを思い出した母チコちゃんは喪服の準備をし始める。
唖然としていた一同がホッとした頃、チコちゃんの爆弾発言が出た。
「喪主の私は着物がいい!貸衣装の手配を!」
あわてて貸衣装を手配したものの、着付けは妹U子にS子さんに妻もふくめて数人でよってたかって整えたのだった。それなのに、いざ会場につくと草履が合わないで指が痛いといいだし、黒いスニーカーに履き替える母チコちゃんだった。
そんな珍妙なスタイルの母チコちゃんだがちゃんと化粧はしている。よく見ると眉がなんか不自然である。よくよくきいてみると、またまた驚愕の事実が露呈した。なんと眉にタトゥーを入れているのだという。なぜタトゥーをと疑問に思いつつ火葬場に向かう。
火葬場ではおごそかにスタッフがお棺をおして運んでいくが、靴のサイズが大きいようでパッコンパッコンいっている。もしも靴が脱げてつんのめったら、お棺がガタンと落ちてしまいそうだ、
自分の黒靴に始まり、母の黒いスニーカー、火葬場スタッフの大きすぎる靴と、なにやら足元が気になった弔いだった
その夜、風呂に入った時に、頭の中をメロディがよぎった。
それは、めったに歌なんか歌わなかった父ハム夫くんが、数十年前によく風呂場で歌っていた曲だ。
ナミダ君がどーたらこーたら、サヨナラ♪とかいうポピュラーソングだ。
そっと小さな声で歌ってみる。
大きな声で歌っても、耳の遠い母チコちゃんには聞こえないのだが。
第98話につづく
(C)2018 ODAMANGA.com All Rights Reserved.
posted by ODA-SAN at 09:00| Comment(0) | 日記
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]