2018年09月24日

第104話「日常生活が冒険」

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四十九日法要後も、僕ひとり残って母チコちゃん(86歳)との短期同居をするつもりだったが、その翌日妻と一緒に帰ることにした。
この一年に六度に渡る遠距離介護ツアーの疲れなのか、ほとんど会話にならない無限ループ発話状態の母チコちゃん(86歳)とこれ以上過ごす自信がないからだ。
まだ父ハム夫くん(享年94歳)が存命だった頃と比べて、母チコちゃん(86歳)と過ごす時間は256倍の疲れを感じる。
時間と空間の認識に大混乱を起こしつつある母チコちゃん(86歳)の日常生活は、ある意味大冒険の毎日なのだ。
日常生活の冒険」という小説があったが、母チコちゃん(86歳)の場合「日常生活が冒険」なのだ。

の日常。
母チコちゃん(86歳)の一日は、仏壇の父ハム夫くんへの挨拶から始まる。
電池内蔵式のロウソクと線香だから、火事の心配はないと安心していたら、家中に線香の香りが漂っている。
どこからかマッチを持ち出し、自分で点火したようだ。マッチの燃えカスが落ちている。
マッチはどこから出してきたのか不明である。この家は、よくモノがなくなるが、どこからかいろんなものが出てくる家でもある。
カン!キン!カン!キン!耳の遠い母チコちゃん(86歳)は、おりんを激しく打ち鳴らす。
たぶん家の外にも聞こえているだろう。その姿と音量はまるでフリージャズのドラマーみたいである。

の日常。
スーパーの海老の広告に見入る母チコちゃん(86歳)。これまで海老アレルギーの父ハム夫くん(享年94歳)の手前、海老をガマンしていたのだそうだ。
立ち寄ったコンビニで冷凍海老ピラフがあったので、電子レンジで解凍調理して出したら、おいしそうに食べている。
これからは気ままな一人暮らしだし、コンビニの冷凍食品利用もすすめたが、それはどうやら難しかった。冷凍食品は自然解凍するものと認識しているのだ。そもそも電子レンジで解凍する感覚がない。じゃあ、何のためにかと問うと、「殺菌のためじゃ」と答える。
それで、母チコちゃん(86歳)がいつも買って来た握り寿司をいきなり電子レンジに突っ込む意味がわかった。生ものを殺菌しているつもりのだ。
テレビでは地元ローカル局のワイドショーをやっている。
中年の男性コメンテーターの顔に見覚えがあるなぁと思ってよく見たら、数十年前のアイドル歌手だった。今は地元でこのような芸能活動をやっているのかと、少しばかり感慨に耽るのだった。
あんまり面白くない番組なので、BSやらCSのチャンネルに切り替えてみるが、母チコちゃん(86歳)にはBSもCSもない。ただいたずらにリモコンをいじっている、そのリモコンも、どこかに置き忘れて、しばしば消えてしまう。

の日常。
寝室にはキチンと布団が敷いてある。
しかし、エアコンは冷房ガンガン、布団の下には電気毛布のスイッチが入った状態だ。暑いのか寒いのか、どっちなんだ?母チコちゃん(86歳)にきいても意味がわからない。
トイレの前にはコタツ板が立てかけてある。そうするワケをきいたら、トイレの窓から誰かが入って来そうだから、ということだった。
階段は転倒の危険もあるので、一階で眠るように言っても、頑としてきかずに二階の部屋に行く。
これも、一階は出入り口が多くて誰かが入って来そうな気がするからという理由だった。
他にも、台所の火のつけっぱなし、水の出しっぱなしもしょっちゅうである。
そのたびに注意すると「なんでこの歳になって小言をいわれるんじゃ〜」と怒る母。もっともではある。
しかし、日常生活がだんだん営まれなくなっているのも事実である。
それに朝昼晩問わず、永遠に続くわけのわからない会話の無限ループ。

翌朝、母チコちゃん(86歳)は眠っている間に猫にひっかかれたキズだらけの顔で、妻と僕が乗ったタクシーに手を振り、見送ってくれた。
まぁ自力で立って見送れるだけで、たいしたもんだと思う事にしよう。
第105話につづく
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posted by ODA-SAN at 09:00| Comment(0) | 日記
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