2018年09月17日

第103話「手ブラで四十九日」

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第六次遠距離介護ツアーのメイン行事である四十九日法要を明日に控えた夕暮れ時、妻が仕事を午前中で切り上げてH県M市までやってきた。
ボクだけH県M市に先乗りして、相続関連手続きなどあれやこれやをやりつつ、果てしない母チコちゃん(86歳)とのエンドレス会話に疲れはてていたので、助っ人妻が来てくれて心底ホッとした。
以下は妻とのボーッとしながらの会話。

妻「お疲れさん」
僕「うんホントに疲れたよ、父ハム夫くんがいた時の方がまだ楽だったよ」
妻「お義父さんはちゃんと論理的な会話ができてたもんね」
僕「うん、母チコちゃんの場合は支離滅裂の無限ループ会話だからね」
妻「まぁいろいろあったけどお義父さんをちゃんと送ってあげてよかったね」
僕「うん、まぁこれからどーなっていくかはわからないが一区切りはついたかな」
妻「明日着ていくワイシャツと靴と靴下もお義父さんのを借りて行くし、きっとお義父さんも喜んでるわよ」
僕「うん、明日の法要の会場も、その後の会食の場も妹U子がおさえてくれたから、あとは直接会場に行くだけだよ」

そんな時に妹U子からLINEで連絡があった。
妹「遺影お骨法名はどうする?」

おおっ、ボーッとしてすっかり忘れていた!
もう準備はすんだと安心して、このままでは手ブラで四十九日法要の会場に行くところだった。
手ブラといっても、グラビアのポーズではない。
そんなくだらないことを考えながら、明日に備えて遺影とお骨と法名の準備にかかる。
遺影は天井近くの場所に置いてあるので、明日やってくる妹U子の長身のセガレにまかせよう。
お骨はけっこう重いので、力自慢の妹U子にまかせよう。
法名は仏壇の中にしまってあるのを発見した。これは軽いので自分で持って行く事にする。
そんなこんなで、法要にやって来たのが坊守さんだったのを気にする親戚のオジサンもいたが、翌日の四十九日法要は無事にすますことができた。
次の行事は一周忌
その時まで喪服は実家に置いておくことにする。
リスが餌を隠してその後どこに隠したかを忘れてしまうように、母チコちゃん(86歳)はなんでもかんでもしまいこんで行方不明にしてしまうので、服の上に「これは息子の服です」と書いた紙を貼っておく。
果たして次にくるまでにこの状態のままかどうかは確信がもてない。クリーニングにでも出して、その事自体ををすっかり忘れてしまうかも知れない。
四十九日法要の翌日、妻は帰京するが、まだ僕はしばらくM市に残って、残務整理しつつ、母チコちゃん(86歳)との短期同居が続く。
(つづく)
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2018年09月10日

第102話「連日の市役所通い」

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前回の第五次遠距離介護ツアーから撤収して一ヶ月もたたないうちに、第六次遠距離介護ツアーにやってきた。
これまでは二ヶ月に一度くらいの頻度だったから、まだ前回の疲れがとれていない。
なんといってもH県M市は800キロの彼方である。移動するだけでも疲れる。
今回のメイン行事は、前回の遠距離介護ツアー中に亡くなった父ハム夫くん(命日は93歳の誕生日の三日前だが、享年は94歳)の四十九日法要だが、他にも様々な手続きもあるのでボクだけ一週間前に先乗りした。
その間、ほぼ毎日M市役所に通った。
なにごともルーティンワークになってしまうと面白みに欠けるので、市役所に行くのも、徒歩で行ったり、自転車で行ったり、バスに乗ったり、いろいろな手段を使ってみた。あまり気が進まない案件でも、目先を変えれば少しは気休めになるというものだ。
市役所に行って、最初にやらなければならないのは母チコちゃん(86歳)の印鑑登録関連。
これがないと、相続関連は何も進まないのだ。
ただ単に、実印にする印鑑を持って市役所に行けばよいと思ったら、そんなに簡単ではなかった。
登録申請の際、本人の運転免許証やパスポートなどの顔写真付きの官公庁が発行した身分証明書提示が必要なのだが、母チコちゃん(86歳)は持っていない。
そこでボクが代理人申請をすることになる。
実印と代理人の印鑑を持って市役所の窓口で申請したら、後日、照会書が母チコちゃんに送られてくる。
その照会書に母チコちゃんが署名して押印したものを、窓口に持参すれば一件落着…かと思ったらそうでもない。
代理人が行く場合は委任状が必要になるのだ。もちろん代理人の本人確認書類も必要である。
ふーっ、これでなんとか母チコちゃん(86歳)の印鑑登録が終了。
今後は交付された印鑑登録カードでいくらでも印鑑証明書の申請ができる。さっそく今後の相続関連手続きに使うために三通取得する。
考えるに、今後もいろんな場面で母チコちゃん(86歳)の身分を証明する必要が出てきそうなので、それに備えてマイナンバーカードを作ることにした。
その前に、通知カードの確認である。
母チコちゃん(86歳)にきいたら「そんなもんは知らん」と予想通りの返答だった。
またしても市役所に行き、マイナンバー通知カードの再発行申請をしたら、個人番号カード交付申請書なるものを渡された。
受け取った用紙にはQRコードがあり、これを利用すればスマホから申請できるとのことなので、iPhone SEでやってみることにした。
さっそくiPhone SEで母チコちゃん(86歳)の写真を撮る。これをQRコードでアクセスしてアップロードすれば手続き終了のはずだ。
iPhone SEのカメラで用紙のQRコードを読み込む…がっ、しかし!読み込めない!
iPhone SEじゃ古すぎてダメなんだろうか?いや、以前にこれより古いiPhone 5SでQRコードを読み込んだ記憶があるから、ハードの古さの問題ではない。
ハードじゃなければソフトである。
胸に手を当てて考えたら、iOSのバージョンに思い当たった。
iOS11以降なら標準カメラでQRコード読み取りができるのだが、ボクのiPhone SEのiOSは11以前であった。
それならiPhone SEのiOSをアップグレードすればいいようなものだが、現行のバージョンでないと動かないアプリをインストールしているのでそれはできない。
そんなわけで、今回の第六次遠距離介護ツアー終了後に自宅のMacでアクセスする事にした。しかしながら、申請後は母チコちゃん(86歳)のところに通知ハガキが届き、それを持ってまた市役所に行く手順である。
まだまだ市役所通いは続く。
そんなこんなで、連日の市役所通いで市役所滞在時間も長くなる。
いろいろ待つ間にロビーのフライヤやら何やらを見ているのも楽しい。来年には妖怪関連のミュージアムができるとか、地元出身のビジュアル系歌手のCDリリースのお知らせもある。
その歌手のビジュアルは妖怪にも負けないようなド迫力である。陰ながら、曲が大ヒットすることを祈ってみた。
(つづく)
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2018年09月03日

第101話「2003年のゴミ出し」

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毎回のように予想外の展開になる遠距離介護ツアーだが、今回ほどの想定外は初めてだった。
まさか、父ハム夫くんが93回目の誕生日を二日後に控えた朝に逝ってしまうなんて思いもよらなかった。
そんなわけで、これから独身生活をおくる母チコちゃん(86歳)を一人にして帰京するのは、後ろ髪を引かれる思いだが、いつまでもここH県M市に滞在するわけにもいかない。
いくら売れてないマンガ家でも、少しは原稿を描かねばならぬ。
とは言え、M市を離れる前にできることはやっておくのが、遠距離介護者の仕事だ。
まずは、たまったゴミを出しておくこと。
壁に貼ってあるM市のゴミ出し分別マニュアルで確認する。
これがまた細かく分類されていて、壁の図表を見てもよくわからない。
母チコちゃんにきいたら「まちがったゴミを出したら収集車はゴミ袋を置いて帰ってしまうが、そのうち持っていくよ〜」との大胆な発言。
分類も複雑だが、指定ゴミ袋も多種多様で、指定袋番号と袋の色で、これまた細かくわかれている。
なんとか指定のゴミ袋に分別したゴミを詰め込んで、ゴミ集積所に足を運ぶ。
集積ボックスの前に立つと、何か違和感がある。
ボクの持っているゴミ袋の色は赤色だが、集積ボックスの中のゴミ袋は全て水色だ。
これは何かがおかしいと感じ、もしかしたらゴミ出し表を見間違えたのかと、家までゴミ袋を持って戻る。
壁の表を見たが、確かにきょうは赤いゴミ袋の日だ。さらに表を凝視したら、右下の小さな数字が目に入った。
そこには、2003年版M市ゴミ分別表と記してあるではないか!
あわててiPhoneを取り出し、M市のウェブサイトのゴミ関連ページでゴミ分別表pdfをを表示してみたところ、なんと!壁の表と最新版の表の内容は、ほぼ同じではあるが、曜日や分別がビミョーに違っているではないか。
そういえば以前、介護所スタッフから、お母様がご近所とゴミの事でトラブルがあったみたいですときいたことがあった。2003年版のゴミ分別表を見てゴミ出ししたら、そりゃ問題ですがな。
母チコちゃん(86歳)の生活は、数十年前の段階でストップしていて、愛用する冷蔵庫の中には、前世紀の食品が入っていたこともあるから、それに比べれば新しいが、それでも2003年版である。
15年前の事など、母チコちゃん(86歳)にとっては、つい先日の事なのかもしれない。
このままにしておくわけにもいかないので、市役所に行って2018年版ゴミ出しマニュアル表をもらい壁に貼り、実家をあとにしたのだった。
新しい物事が覚えられない母チコちゃん(86歳)は、目の前に何か目新しいものがあると隠してしまう傾向がある。はたして、次回の第6次遠距離介護ツアーで実家にくるまでの間に、この新しい表がこのままあるのか。
(つづく)
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2018年08月27日

第100話「父の用意周到」

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急に逝ってしまった父ハム夫くん(92歳)だが、自分がいなくなった後の事を、生前にそれなりに用意はしていた。
寝室のヒキダシに「重要書類入れ」と記したファイルをしまっていたのだ。
几帳面な性格らしく、土地家屋関連書類や、年金関連の通知等が年代順にきちんと整理されていた。しかしボケはじめたこの2年くらいの分は新聞の広告や包装紙みたいなものがまざっていたのだった。
そういえば、亡くなる日の朝のこと。
ベッドに座ったまま、ボクに近くに来いと手招きをしている。
近付いて行くと、足元を指差す父ハム夫くん。
そこにはA4の紙が落ちていた。拾い上げてみると名刺をプリントしたものだ。
その昔、インパクなんてのがムリヤリ行われて、行政主催のパソコン教室なんてのがあった頃、ハム夫くんもこれに参加したことがあったが、その当時にサンプルとして作ったものかもしれない。
このパソコン教室で使われたのは国産のWin機だったのだが、ハム夫くんはその機種と同じものをパソコン教室終了後に購入した。それを後日知ったボクは、なぜ Macにしなかったんだよ〜と激怒したのを覚えている、その時のハム夫くんの鼻白んだ表情が忘れられない。
すまなったかなハム夫くん、Macのことになると瞬間的にあつくなってしまうんだよ、あの時はゴメン。
話は、足元の名刺用紙に戻る。
父ハム夫くんは、その用紙を手に持ちひっくりかえして裏側を指差している。
そこをよく見ると、なにやらボールペンで文字らしきものが何行か書いてあり、そのまわりが丸く囲われている。
やるべきことを書いて、それをまとめて囲って説明しているようだ。
しかし何が書いてあるかは判別不能だ。
ボクが頭をひねっていると、さらに足元を指差している。
そこにはティッシュペーパーが一枚落ちていた。
よく見ると、そのティッシュペーパーにもなにやらボールペンで文字らしきものが何行か書いてある。先ほどの名刺用紙と同じくそのまわりを丸く囲っている。
やはり何かを説明しているのだろう。
コレは何が書いてあるのか訊こうとしたその瞬間、父ハム夫くんは「わかったな?」といった表情でにっこりした後、ティッシュペーパーを顔に近づけてチーンと鼻をかんだのだった。
その後は、ティッシュペーパーを丸めてポイとそのへんに投げ捨てる。
今思うと、あれは遺言のようなものだったのかも知れない。
葬儀はこうやって、残ったものはこうやって分けなさいよ、と書いていたような気がするが、今となっては真相は不明である。
というわけで、初めての相続に右往左往しているのが現状だ。
なかなか手強そうだが、以前やりかけてそのままになってしまった成年後見人のチャレンジよりはなんとかなりそうではある。
まずは、相続関連特集のある日経マネーのバックナンバーでも探すことから始めるとしよう。
父ハム夫くん(92歳)は、葬儀の三日後が93回目の誕生日だった。
今後、父ハム夫くん(93歳)と記す事はない。
(つづく)
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2018年08月20日

第99話「ソは相続のソ」

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いずれは相続の手続きをしなければならないと思いつつも、面倒そうなので後回しにしていた。
相続関連手続きはいろんな書類をそろえたり、いろんな窓口に申請に出向いたりと、遠距離介護者にとってやっかいな問題なのである。
それよりも公共料金引き落とし先変更届けが先決である。
ガスやら電気やら水道が急にとまるようなことになったら大変だ。
まずはガスの引き落とし先の金融機関に出かけ、引き落とし先を父ハム夫くん(92歳)の口座から、母チコちゃん(86歳)の口座に変更したいと申し出た。
変更手続き伝票を渡され記入して一件落着…のはずが。
それでは今後の相続についてご説明します」と窓口のスタッフ。
これよりお父様の口座は相続終了まで凍結されます」と続いた。
えっ、まだ相続関連手続きは先にするはずだったのに、いきなりの展開である。
相続手続き依頼書なるものを手渡される。
相続に必要な書類一覧表もある。
それによると、亡くなった父ハム夫くん(92歳)の出生から死亡までの戸籍謄本一式が必要なのだそうだ。普通の戸籍謄本とは違うのだろうか?一式という事は、複数のものを揃えるのだろうか?
相続人全員の印鑑証明書も必要だ。
母チコちゃん(86歳)は印鑑登録そのものをしていないから、まずはこれからだ。
電気料金は他の銀行なのでそちらにも回ったが、書式がビミョーにちがうものの大筋では似たようなものだった。
水道料金引き落としは、ゆうちょ銀行なので、そこにも行ってみたら、他の銀行とは異なっていた。
相続関連ですと申し出たら「ゴシューショーサマデス」と窓口の年輩の郵便局員に言われて、ちょっと面食らう。
他の銀行とちがって、まず相続手続きに入る前に相続確認表というものを書く必要がある。これは被相続人と相続人との関係図みたいなものだ。それを窓口に提出すると、その時点で口座は凍結されるが、相続手続きはまだ始まっていない。
2週間くらいしたら、必要書類のご案内というものが郵送されてくるのだそうだ。そこに書かれてある書類を用意してゆうちょ銀行の窓口に提出する流れだ。その後に何も問題がなければ金券(窓口のスタッフは確かにこういったが、ちゃんとした正式名称は別にあるような気がする。金券だと、商店街の福引きで当たったみたいだしね。)が送られて来て、それを再度ゆうちょ銀行の窓口に持って行き、それでやっと払い戻しされるのだ。
ああ面倒臭い。
しかも残高が100万円以下と以上で手続き書類も違うのだそうだ。たぶん100万円はないだろうから、100万円以下の場合に使う「窓口即時払用」手続き請求書を受け取って帰る。
がっ、しかし!
通帳類を管理している妹U子に確認したら、100万円以上残高があるというではないか。
同じ郵便局に100万円以上の書類を再度もらいに行くのは恥ずかしいので、少し離れた別のゆうちょ銀行に行き100万円以上の書類を受け取る。今度のは「集中処理用」と記されている。きっと集中して処理するのだろう。
銀行関連はなんとかなりそうだが、ゆうちょ関連は今後も何か問題が起こりそうな気がする。少なくとも窓口に出向く回数は銀行よりは多い。
わずかばかりの相続関連手続きの経験で、今ワタクシは思う。
自分だっていつ何があるかわからない。
相続のことを考えると自分のゆうちょ銀行の口座はいずれは解約しよう。解約しないまでも100万円以下にしておこうと。
第100話につづく
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