2017年12月11日

第60話「三食早寝付き介護生活

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父ハム夫くん(92歳)と母チコちゃん(86歳)の二人が暮らす、H県M市の実家の朝は早い。
二人とも季節を問わず日の出とともに起きているようだ。
父ハム夫くんの朝一番の仕事は、朝刊をとりにいくこと。
調子のいい日は新聞を広げて読む。
あんまり調子の出ない日は、広げないで1面だけを眺める。
調子が悪い日はゴミ箱に直行して、新聞を広げる事もなく広告ごと突っ込んでしまう。
その日が新聞紙段ボールなど資源ゴミの日だと、読まないままゴミ集積所に持って行くこともある。
そんな父ハム夫くん(92歳)なのに、休刊日には新聞はとりに行かない。
そこらへんは、妙にちゃんとしているのだった。
朝食は二人ともパン食である。たいていが賞味期限切れである。
それなのに米も炊く。
炊きたてのゴハンはおいしいのに、炊きたては食べない。冷凍して保存するわけでもない。いたずらに時間が過ぎ、冷たいゴハンになっていく。運がよければ、そのうちレンジでチンするが、なぜか茶碗にゴハンが入った状態でトースターに入れられていることもある。そのうちにひからびてゴミになる。
二人とも米には感心が深いようで、父ハム夫くんの口癖は「米炊くか?」である。ほとんど食べないのにね。
昼食はスーパーの弁当と総菜を買う事もある。
それが二人で食べるには多すぎる量でビックリする。
当然食べきれない。
残った食料は台所のあちこちを放浪して、残飯からやがて生ゴミになる。
夕食は、スーパーで買ってきた、これまた食べきれないほどの肉やら魚やらをフライパンで炒める料理のようなものを作る。野菜はほとんど摂らないようだ。いつ作ったのかわからない料理も食卓に並ぶ。
「こんなに食べきれないほど用意する必要はないんじゃない?」と母チコちゃん(86歳)に言ったら「食卓がいっぱいでないと寂しいんじゃ」とのこと。
そうか、食べるために並べているわけではないのか。
それでスーパーに行ってもあんなに大量に食材を買うのかと納得したのだった。
食材はともかく、調味料や油が古いのか、食べると気分が悪くなることも多い。
そうこうしているうちに日没を迎え、風呂に入る事もなく、眠る体制に入る二人。
以前は食後にテレビを見ていたようだが、それもほとんどない。気が向けば見る程度だ。
テレビの前の二人を観察していると、ドラマはストーリーの流れが理解出来ていないようだ。
ニュースは見るが、いつどこで起こったどんなニュースをなのかはわかっていないようで、ただボーッと眺めているだけなのだ。
こんな一日が終わり、早ければ午後6時消灯で床につく父ハム夫くん(92歳)と母チコちゃん(86歳)だった。
遠距離介護者として実家にやってきたボクも、こんな生活リズムに合わせるしかない。
正直なところ、とても精神的に疲れる。
肉体的にも、出された食事におびえながら食べていて、お腹の調子も悪い。
食器もたくさんあるのに、欠けたり不揃いで、まともなものが少ない。箸も以前はちゃんとしたものが沢山あったはずなのに、なぜかワリバシを何度も洗って使っている。
もう生活のすべてが崩壊しつつあるようだ。
それにしても、こんなに早い時刻には眠れないよ…。三食早寝付き介護生活の夜は、まだまだ更けない。
(つづく)
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2017年12月08日

第59話「夫婦漫才ダブルボケボケ」

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遠距離介護生活もスタートして約半年。
父ハム夫くん(92歳)と母チコちゃん(86歳)の二人は、順調にボケ度が進んでいる。
物忘れが激しいのはもちろん、日頃の行動もドンドン変化している。
第三次遠距離介護で実家に滞在して驚いたのが入浴問題だ。
どうも二人ともここしばらく風呂に入っていないようなのだ。
風呂が壊れたのかと調べたらそんなことはなかった。
こういう状態になったらよくあることらしいのだが、風呂に入ること自体が面倒なのか、それとも他に原因があるのか、二人にきいてもわからない。
二人の生活空間では、お風呂場はあまり重要でないのかもしれない。
まぁ、風呂に入らなくても死ぬ事はないだろうと、無理矢理考える事にする。
次に洗濯問題。
なんだか知らないが朝から一日中洗濯をしている。
まぁ洗濯機が使えるからいいとしよう。
ちゃんと干す事もできる。
そして1時間後、まだ乾いていない洗濯物を取り入れ始めるのだった。しかたないので、生乾きの洗濯物を再び干す遠距離介護者のボクでした。なんだかむなしい作業だ。
二人の生活で、時間の流れは以前とはちがうのだろう。
まぁ洗濯物が生乾きでも死ぬ事はないだろうと、無理矢理考える事にする。
少し手があいた母チコちゃん(86歳)のお決まりの話が始まる。
それは「病院で首を切られて血をとられる検査をされそうになった」というもので、一日に何度も何度も話すのが日課だ。これの真相は、病院で首のエコー検査と、血液検査をしたことがゴチャマゼになった結果のようだ。
父ハム夫くん(92歳)もボクに話しかける。
「いつ来たんじゃ?」と。しばらくすると「いつ帰るんか?」と。
このパターンが一日に数回繰り返される。
二人のこの会話パターンは今日で何度目なのかと、心の中で正の字を書くのだった。
介護とは同じ話を何度も聞く事なり!なんてフレーズが脳裏をよぎる。
この状況に耐えることが、果たしてボクの今後の人生に役に立つ事があるのだろうかと考えてみる。
もしかして将来、共謀罪を適用され何かの冤罪で捕まり、連日の執拗な取り調べを受けた時に、父母の無限ループ会話に比べればどうってことないかと思えて耐えられるかもしれないなァ、などとバカな事を考えた。
そうこうしているうちも二人の無限ループ会話は続く。
一回ハナシが終わるごとに心の中に正の字を書いていくが、正の字が四つ以上になった頃には、さすがにココロが折れてくる。
それでも、なんだかんだで一日が終わる。
しかし、次の日になると、再度同じようなことが繰り返されるのだった。
昔読んだSF小説で、朝起きると昨日と同じ一日がまた繰り返される、というものがあったが、まさにそれに近いものがある。
きょうも父ハム夫くん(92歳)と母チコちゃん(86歳)による夫婦漫才ダブルボケボケのネタにつきあう一日がスタートした。
歩けるだけでOK!
話せるだけでOK!
生きてるだけでOK!
そう思うしかない遠距離介護者であった。
第60話につづく
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2017年12月04日

第58話「カレンダーババー♪」

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母チコちゃん(86歳)は、物忘れがはげしい
今はまだ自分が物忘れをする自覚を持っているが、このペースでドンドン進行すると、そのうち物忘れが多いということも忘れるようになるのかもしれない。
家の中では、常に物忘れが気になるようで、何かを探している。
それはカバンだったり、メガネだったり、猫クンだったり。
たいていの場合、それら探す対象はすぐ近くにあることが多い。
「ヤンヤン(猫の名前)はどこじゃ?」とキョロキョロする母チコちゃん(86歳)の足元に、ヤンヤンがうずくまっている事もよくある。
そんな状況だから、母チコちゃん(86歳)はカレンダーに忘れてはいけないことなどをメモしている。そこで、母チコちゃん(86歳)をカレンダーババーと命名した。元ネタはカレンダーガールである。ニール・セダカのね♪
病院に行く日は、カレンダーの数字を大きく丸でかこんで忘れないようにしている。
ボクが「これなら病院に行く日がすぐにわかっていいね」と母チコちゃん(86歳)に言うと、「いつ行くんか?」との返答。
カレンダーにシルシはつけたものの、関連がうまくいっていないようだ。
「でも自分でカレンダーに記したのに…」とボクが言うと、「誰が書いたんか、ワタシは知らんよ」と母チコちゃん(86歳)。
カレンダーには予定だけでなく、ちょっとした日記風なコメントも書いてある。
脳トレ教室に行った日は、物忘れに関して考えるところがあったようで「だんだんアホになっていく自分が悲しい」と記していた。
今回の第三次遠距離介護ツアーで、ボクが実家に到着した日には「息子がひさしぶりに来てうれしい」とも。久しぶりといっても、前回の第二次遠距離介護ツアーから二ヶ月しか経ってない。20年前のことはよく覚えているのに、二ヶ月前のことは忘れているのか。
ボクが第三次遠距離介護ツアーを終えて帰京する予定の日には「息子が帰るのは寂しい」と記してある。
ちょっと泣けるね。
第59話につづく
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2017年12月01日

第57話「アド街ぶらぶら介護」

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介護生活でのトラブルのひとつに、運転免許証問題がある。
高齢になったり、認知症になったりした人がクルマを運転して事故につながる可能性だ。
我が家の場合、母チコちゃん(86歳)は元々運転免許はなかったし、父ハム夫くん(92歳)も80代のうちに免許証は返上している。
80歳を過ぎてからの父ハム夫くんの運転は、同乗している時に感じた事だが、ブレーキのタイミングが一瞬遅くなっているし、交差点での視界が狭まっているように思えた。こちらから返上を提案する前に、自ら返上してくれたので、この問題に関してはメデタシメデタシなのだった。
そして今、ボクの遠距離介護生活が始まった。
そこで気がついたのが、実家に滞在中のアシがないのだ。
父ハム夫くんが乗っていたセダンは免許返上に伴い、クルマで1時間の所に住む妹U子が譲り受け、現在我が家にクルマはない。
以前は50cc原付もあったようだが、今はそれもない。パンクした自転車があるだけだ。
市内循環バスもあるが、経路がよくわからないので、基本的には徒歩になる。
まぁ一日一万歩のウォ−キングがてら歩くにはちょうどよい面積の土地ではあるのだが。
実は、父ハム夫くん(92歳)と母チコちゃん(86歳)が住んでいるH県M市のことを、ボクは良く知らない。10代の頃数年住んだだけで、それから数十年経過しているのだから、ほとんど土地勘はないに等しいのだ。
そんな事を、数少ない昔からの友人で、現在M市に住んでいるココナツ君に話したら、彼のBROMPTONを貸してくれることになった。BROMPTONとはフォールディングバイクのことだ、平たく言うと走行性能良好折り畳み小径自転車。彼とボクはBROMPTON愛好者つながりでもあるのだが、そういえば自分のBROMPTONにも1年くらい乗っていないなァと気付く。
さっそく乗って街に出てみる。
これが思いのほか気持ちよかった。知らない街をポタリングする気分で、ぶらぶら走るのが楽しい。次回の第四次遠距離介護ツアーでは、自分のBROMPTONを輪行袋に入れて持参しようかなどと、介護とは全然関係ないことを考える。
グルっと街を一周したら、ユニクロ、ミスド、マクド、すき家、モスバーガー等々全国どこにでもある店が、ここH県M市にもある。しかしスタバもタリーズもない。純喫茶系がしぶとく生き残っていて、カフェ系の波にものみこまれなかったようだ。それもまた楽しからずや。
の〜んびりと木漏れ日を浴びつつ、Tシャツと短パンにサングラス姿でBROMPTONに乗る姿は、とても介護生活者とは思えないだろう。せっかくだから、その姿を iPhone SE で自撮りして妻にLINEで送る。全く介護の悲壮感のない画像なのだった。
第58話につづく
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2017年11月29日

第56話「道具が使えない母」

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父ハム夫くん(92歳)も母チコちゃん(86歳)も、まだ自力で歩けるし、自力で食べる事もできる。
しかし、この数ヶ月でめっきり道具類が使えなくなってきている。
母チコちゃん(86歳)は掃除機がうまく使えない。
いや、掃除機そのものが見当たらない。これまで三回の遠距離介護ツアーを挙行したが、その間に一度も掃除機の姿を見かけたことがない。掃除機のかわりに床の上を転がすコロコロみたいなものでごまかしているようだ。
ボク自身、あんまり清潔第一な方ではないが、猫の毛は落ちてるし、ホコリも床の上にたまっているしで、さすがに気になるレベルだ。
身の回りだけでも掃除をしようとしたら、掃除機がどこにもないのだ。
掃除機はどこにあるかを母チコちゃん(86歳)にきいても要領を得ない。
しばらくして、母チコちゃん(86歳)が「これならあるよ」と持ってきたのは布団乾燥機だった。
どこから出してきたのか、掃除機のノズルも手に持っている。
でも布団乾燥機に掃除機のノズルを無理矢理つけても掃除はできない。そもそも径が違うから接続は出来ない。なんとかノズルをつなごうと努力している母チコちゃんの姿は、マルクス兄弟のハーポみたいな動きをしていて、おかしいやら情けないやら、「もういいから」と母チコちゃんのムダな努力をやめさせた。
そのままではどうしようもないので、台所の隅っこにあった小さなホウキとチリトリで最低限の掃除らしきものをしたのだった。
結局、第三次遠距離介護ツアーでボクが滞在している間には掃除機は出てこなかった。
さて、この掃除機問題の後日談。
妹U子が家の中を整理していたら掃除機が二台も出てきたのだ。
もはや、母チコちゃん(86歳)は、道具を自分でどこにしまったのかも思い出せなくなっているようだ。そういえば、マルクス兄弟にはチコという名のメンバーもいたな、などとどうでもいいことを考える遠距離介護者だった。
第57話につづく
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2017年11月27日

第55話「道具が使えない父」

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父ハム夫くん(92歳)も母チコちゃん(86歳)も、まだ自力で歩けるし、自力で食べる事もできる。
しかし、この数ヶ月でめっきり道具類が使えなくなってきている。
父ハム夫くん(92歳)はシェーバーがうまく使えない
実家からクルマで1時間くらいの所に住んでいる妹U子が、多機能と正反対の、ただ剃るだけのシェーバーを持ってきてくれた。
スイッチは上下にスライドしてオンオフを切り替えるだけのシンプルなタイプだ。
でも、この上下スライドの動きが父ハム夫くん(92歳)はできないのだ。
どうやら力まかせに押し込んでいるようだ。
父の手の上にボクが手を添えて上下スライド運動をサポートすると、なんとかできるようになった。スイッチがオンになって、とても嬉しそうな表情の父ハム夫くん(92歳)だった。
気持ち良さそうにヒゲを剃る…剃る…剃る…。もうツルツルになっているのにひたすら剃り続ける…。
飽きるまで剃る。なかなか飽きない…。
やがて、剃り終えてスイッチをオフにしようとするが、どうしてもできない。
また父の手の上にボクが手を添えてスライドする動きをサポートする。
ボクが幼児だった頃、オモチャかなにかの操作がうまくできなくて、父がボクの手をとって教えてくれたことがあったような記憶が蘇るのだった。
翌日、またしても同じ事の繰り返し。
ボクが第三次遠距離介護ツアーで滞在中はこれでいいとして、ボクが帰京した後はどうなるか不安がよぎるのだった。
さて、このシェーバー問題の後日談
ボクが第三次遠距離介護ツアーを終えて帰京した後、妹U子が実家に行ってみたら例のシェーバーがどこにも見当たらなかった。
そこまでは、さもありなんといった感じだが、なんと今まで見た事のない新品の高性能シェーバーが箱に入った状態でテーブルの上にあったのだ。しかし高性能ゆえ使い方がわからなかったようでそのままにしてあったそうだ。充電式なので、使う前にそこでギブアップしたようだ。
さらに数日後、妹U子が実家に行ったら、新品の高性能シェーバーの箱だけがテーブルの上にあり本体がどこにも見当たらないのだった。
大探しの末、血圧計の箱の中にむりやり押し込んであったのを発見したとの連絡があった。
現在、実家に、はたして何台のシェーバーがあるのか、次回の第四次遠距離介護ツアーで発掘してみることにしよう。
第56話につづく
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2017年11月24日

第54話「東京五輪前シンクロ介護」

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父ハム夫くん(92歳)が銀行預金通帳をゴミに出す暴挙から始まった遠距離介護ツアーも約半年が経ち少しは落ち着いてきた。
現在では、通帳関連はボクと妹U子でほぼ把握したので、ものすご〜くメンドーな成年後見人の手続きは、今のところは手を出さなくてすんでいる。
しかし、その後も父ハム夫くんのゴミ出し運動は着実に進化していて、最近のトレンドはゴミの入ったポリ袋ごと、近所に住む親戚のS子さんの畑に埋めてしまうものだ。それを毎日S子さんがチェックして掘り出している。
まさに「権兵衛が種まきゃ」状態である。
悲惨な状況なのに、なぜか笑えてしまう。
主人公の父ハム夫くんが、バスター・キートンばりのクールな表情でいるのがよけいに可笑しい。
いまや父ハム夫くんは金銭関係にもクールでアナーキーだ!どんなに各種税金納付書が届こうと一切無視して払う気なし。そんな書類が、時々部屋のあちこちから出てくるので、その都度ボクが支払いに行くのも、ある意味日常的介護活動といえよう。
固定資産税の第○期分の納付書を発見した時には、すでに納付期限から一ヶ月が過ぎていた。
慌てて金融機関の窓口に行き「これ納付期限過ぎてるので…」と言いつつ納付書を差し出すと、応対した若いスタッフが奥のえらそうな人の所に行ってなにやら相談して戻ってきた。
「このままの金額でいいです!」ときっぱり。
向こうがそういうのならそれでいいのだが、いまだに真相はよくわからない。以前ボクが何かのミスで修正申告した時は、しっかり延滞分を納付した記憶があるのだが。
母チコちゃん(86歳)の日常介護の舞台は台所だ。
料理を作るのがだんだん負担になっているようなので、冷凍食品利用をすすめたが全くその気がない。冷凍室には正露丸の瓶やら、お弁当についている小さい醤油入れとか、冷凍する必要のないものがいっぱい詰まっている。奥の方には何かわからないものがあるようだが、怖いので探索する気にならない。
なぜ冷凍食品を使わないのか何度もきいたら「冷凍食品は不味い!」とのことだった。いったいいつのイメージなんだよ、と言いたいのをこらえて、「確かに昔の冷凍食品は不味いのもあったらしいけど今はそんなことないよ」と言ってみる。当然聞く耳持たずの母チコちゃん(86歳)である。
電灯のスイッチをオンにするのもボクのできるささやかな日常介護だ。
妙に薄暗いな〜と見上げると、台所でも居間でも消灯しているのだ。あれだけテレビやエアコンやガスや水道をつけっぱなし流しっぱなしなのに、とにかく照明のスイッチはすぐにオフにする父ハム夫くん(92歳)と母チコちゃん(86歳)だ。
きけば「昼間は電気は消すもんじゃ」と言い切る。
う〜ん、そういえば昔は照明は夜しかつけなかったような気もする。そう、裸電球がぶらさがっていた時代の頃だ。
ゴミの話に戻るが、昔は穴を掘って埋めたり、そのへんで焚火をして燃やしたりして、ゴミの分別なんかはなかった。いまや二人の頭の中は60年くらい前の時代の感覚なのだろう。そう東京オリンピックを数年後に控えたあの頃だ。
な〜んだ東京オリンピック前を基準に考えれば、現在とシンクロしているではないか。もしかして二人の頭の中では、アベベやチャスラフスカが生き生きと躍動しているのかも知れない。父ハム夫くん(92歳)と母チコちゃん(86歳)も生き生きと躍動していたあの頃の時代だ。
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2017年11月22日

第53話「半漫半介」

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介護離職というものがあるそうだ。
文字通り、介護のために離職するというものである。
遠距離介護の場合、どうしても長期滞在になりがちで、会社勤めだと仕事を続けるのが難しくなるのだろう。
今回の第三次遠距離介護ツアーでは、2週間くらい父ハム夫くん(92歳)と母チコちゃん(86歳)の住む実家に滞在しているが、ボクも周囲からは介護離職者と思われているのかもしれない。
介護離職者に見られても別にかまわないのだが、ずっとマンガ家として過ごしてきて、就職なるものをしたことがないので、そもそも離職ができない。それに、会社勤めだと有給休暇があるが、自由業にあるのは無給休暇だけである。引退してしまえば、いきなり老後生活に突入である。
そこで思いついたのが、マンガ家ならではの半漫半介生活というもの。
朝から晩まで父母につきっきりでもないので、合間をぬって仕事もしてみようと思い、MacBookProと小さなペンタブレットを持参してやって来たのだった。
さて仕事でもするかとMacBookProを手にしたとたん、机がないことに気がついた。しかたがないので、部屋の隅にあったヒーターをはずしたコタツを机替わりにしてみる。
これはとても腰が疲れる。
全然仕事がはかどらない。
それでも、なんとか調子が出てきたと思ったら、いきなりガラッと戸をあけて父ハム夫くん(92歳)が顔を出し、この部屋でコイツは何をしておるのか、といったような表情で、「仕事か…無理するなよ」とねぎらいの言葉をかけてくる。これに応対しているうちに、 なんだか調子が落ちてしまう。
しばらくして、またエンジンがかかってきたと思ったら、再び戸が開いて、今度は母チコちゃん(86歳)が「ゴハン食べるか」ときいてくる。今日は外で食べたから食事はいらないと何回も言ったのに、すっかり忘れているようす。
もう緊張の糸が切れて画面に向かう気にならないので、コピーをとりがてらコンビニに出かけて気分転換することにした。
コピーのついでに夜食を買って、家まで帰ってきたら玄関が施錠してある。何回もチャイムを押して、やっとドアを開けてくれた父ハム夫くん(92歳)がこう言った。
「あれっ、東京に帰ったんじゃなかったのか?」と。
も〜コントみたいな毎日の半漫半介生活なのだった。
第54話につづく
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2017年11月20日

第52話「介護サービス生活日常」

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遠距離介護者にとって一番わからないのが、父ハム夫くん(92歳)と母チコちゃん(86歳)の日常生活だ。
契約している介護事業所のスタッフが毎日服薬確認に来ているので、一番父母の日常を知っているのだが、一方父母の方はなぜ介護事業所のスタッフが毎日来るのかは全然理解していない。
父母に「昨日は誰が来た?」と問いかけても「さぁ…誰かわからん」との答えしかかえってこない。そもそも顔も名前も覚えていないようだ。
遠距離介護者としては、短期滞在期間中にできるだけ父母の日常を把握しておきたいのだが、こんな会話が続くのでなかなか要領を得ない。
こうなったら、来訪するスタッフさんにきくしかない。
と、ある日の朝、やってきた女性スタッフさんの顔には見覚えがある。3ヶ月前の第二次遠距離介護ツアー時に会った気がするが、どこかが違う。そうだ、あの時はメガネをかけていたので、今と印象がちょっと違ったのだ。
その事を話すと「夜勤明けの時はメガネをかけるんです」との事だった。
なるほど〜ひとつ勉強になったと感心する。何の勉強かはわからないが。
父母の日常をきいたら「ちゃんと薬は飲まれてますよ」とのこと。そう言いながらも口をモグモグしている父ハム夫くん(92歳)の口元を凝視しているのはプロの技か。
他のある日は男性スタッフ。この人にも見覚えがあったが、ヘアスタイルが以前よりだいぶ変化していてすぐにはわからなかった。
「髪切った?」とタモリみたいなことを言ったら、「昨日ファミレス○○にいませんでしたか?」と返ってきた。確かにいた。店内でフリーWi-Fiが使えるらしいので行った店だ。狭いH県M市のことだから、どこで見られているかわかったものじゃない。
またまた他のある日の朝。
この日は数人のスタッフさんがドヤドヤと入ってきた。
おりしも母チコちゃん(86歳)の誕生日で、お祝いに歌のプレゼントとして玄関先で「ハッピーバースデートゥーユー」の合唱。歌う方も、歌われる方もなんとなく気恥ずかしい雰囲気で、歌が終わったときには全体が安堵の胸をなでおろしたのでありました。拍手パチパチ!
歌に続いて、お祝いの色紙もいただき、うれしそうな母チコちゃん(86歳)だった。
今も色紙は部屋に飾ってある。
イラスト入りで、けっこう丹念に手が入った力作である。しかし、よ〜く見たら「誕」の字が誤字だった。
ここの事業所、契約書にも誤字があり指摘したことがある。小さな事は気にせず、おおらかな社風なのかも知れない。
結局、父母の日常生活の詳細はよくわからないのであった。
(つづく)
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2017年11月17日

第51話「二度目の訪問調査」

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いよいよ第三次遠距離介護ツアーのメインエベント、二度目の介護認定訪問調査である。
四ヶ月前の訪問調査は、近所に住む親戚のS子さんと、実家からクルマで1時間の所に住む妹U子に立ち会ってもらったので、ボクが立ち会うのは初めてのことだ。
まさかこんなに早く介護認定区分変更申請という事態になるとは思わなかったというのが正直な気持ちだ。
約束の時刻になってやって来たのは、現在契約中の介護事業所の管理者と担当のケアマネさんの二人だった。たしか五ヶ月前の訪問調査では市から委託された調査員が来たとの事だったが、今回はそうではないということなのか。本日の主人公、母チコちゃん(86歳)は、この二人の事は覚えていないようだ。説明しても「覚えとらんよ」の一言で片付けられた。
まずはお決まりの「今日は何月何日ですか?」から始まる。
ところが今日の母チコちゃん(86歳)は、これまでのテスト時とは違い調子が悪そうで、いきなり「○月○日」と答えるが、月も日もデタラメだった。
たまたまこの週に、母チコちゃん(86歳)の誕生日があったので。次の質問は「誕生日はいつでしたか?」というものだった。
これに対しても「いつだったか…昨日か…」というおぼろげな答えだった。正解は一昨日なのにね〜。
「買い物は一人で行けますか?」の問いには「ハイ!毎日Aストアまで歩いて行ってます」と答える。うむ、これは合ってるぞ、やっと調子が出てきたもよう。
しかしそれに続いて「BBプラザやグリーンモールにも行きます、帰りは荷物があるのでタクシーで帰る事もあります」と言うではないか。ウソつけ〜っ!そんな遠いショッピングセンターにはもう何年も行ってないだろが〜っ!とはボクのココロの声。
受け答えは普通なのでうっかり信じ込んでしまいそうだが、このての作り話というか妄想というか勘違い思い違い前提の会話が頻繁にあるのが、母チコちゃん(86歳)の会話の特徴である。それにしても、帰りはタクシーだなんて妙にリアルなところがある意味すごい。
今の答えは事実ではないですよと、調査中のケアマネさんに目配せでサインを送る。相手もプロだから、このての会話には慣れているようで、こちらにうなずきかえすのだった。
訪問調査終了後、母には別室にひっこんでもらって、ボクとケアマネさんでの打ち合わせ時に、施設の申し込みだけでもしておいたらとの助言があった。
その際ケアマネさんが、母が住む町内にあるサービス付高齢者住宅を例に出したところ、ケアマネさんの横にいた介護事業所管理者が「ウチの系列にも施設があります!」と割り込んで来る。まぁ、営業上は当然の反応である。
う〜む…。
今まで在宅介護の事しか考えていなかったが、施設を検討する段階に入っているのかと、ちょっとショックをおぼえるのだった。
訪問調査を終えて去って行く二人を見送る母チコちゃん(86歳)は、ボ〜ッとした様子で立ちすくんでいる。これまで来客があった時は必ずお茶の用意をしていたのだが、そのようなこともできなくなっているのかもしれない。
さて、この後は介護認定審査会の判断を待つしかない。結果通知は来月くらいということで、とてもそこまでは滞在出来ないが、父母が出来なくなっている雑事をこなすことにしよう。
第52話につづく
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